伝統のウケ

「涼夏」というアニメを観たのである。

 

原作は少年何とかの連載マンガらしい。高校美少女/青少年青春モノで、ああいうのをアニメ化すると大抵の場合ベタなものになりがちである。制作側にパッションや予算が足らず、作画や動きにも手を抜くので観るに耐えない作品になるのだが、何の間違いか私はこれを延々と録画し続けていたのである。

 

というのも、我が家の主力録画機がHDD化されたからだ。200ギガの大容量で、32番組の予約録画が可能なので余裕がある。一度設定してしまうと、何か理由がないと外さない(観てしまってつまんないと判れば予約設定外して録画も消す)のだ。で、実は「涼夏」という異常気象のような表題のアニメが延々と録画され続けていたのであった。

 

先日、いつもの通り録画ビデオを観ていて、もう未視聴が100番組くらい溜まってしまったので整理しようと、とりあえず放置してあった「涼夏」を観てみた。もちろん、つまんないに決まっているからお義理に観てすぐ消すつもりであった。ところがどうして、この「涼夏」、ただものではなかった。

 

面白いかどうかと聞かれたら、面白くないと答えざるを得ない。絵は下手だし動きはイマイチ(どころじゃない。主人公が走るシーンなんか腕のフリがうる星のあたるみたいだ)、キャラも優柔不断なのにモテる男とイヤミばかり言うギスギス女という、最悪の組み合わせである。しかも、致命的なのは登場人物が吃音持ちなことなのだ。「ど、どうして」「え、ええと」「そ、それは」と異様にどもる。聞くに耐えないシナリオで、これって声優さんたち大変なのではないか。

 

それでも、私は見続けた。1話が終わるとそのデータを消去し、次の週の話を全部観て消去し……と、とうとう最後まで観て(消して)しまった。しかも、録画をやめるつもりで消去した予約を復活させたりして。
そうなのである。むしろ嫌いな話なのだが、「次にどうなるか」という一点においてはまぎれもなく一級品の話なのだ。アメリカのソープ・オペラ、日本のトレンディドラマなのである。舞台は高校の陸上部で、キャラは高校一年生なのだが。

 

超高校級の走り高跳び選手である美少女ヒロインと、転校(入学?)してきて一目惚れして告白してすぐ振られてそれでも諦められずに後を追って陸上部に入部した主人公。ここまではいいとしても、その二人がワンルームマンション(寮として設定)の隣同士の部屋に一人暮らしで、男の方に陸上部のマネジャー美少女が惚れてメシ作りに来たり、その純情にほだされて主人公がよろめいたり、ヒロインが露骨に気にしたり、それが原因で破局したり、なぜか主人公走らせてみると100メートルを10秒代で走る天才スプリンターだったり、ライバルのハーフ男が出たり、まさに次に何が起こるか判らないアンビリーバボゥな話なのであった。

 

トレンディドラマと書いたが、考えてみれば少年○○○○などの大半はそんなものなのかもしれない。次に何が起こるか? というのが原点なのだから、シナリオが似てくるのも当然だろう。ただ暴力や怪物や陰謀がないだけだ。それなしで波瀾万丈をやるのは凄いとは思うけど。

 

そしてもっと考えると、数十年前からそういう方法でウケをとってきた業界があった気がするのである。昔の少女漫画って、まさにそれだったような。異様な設定のヒロイン(孤児で謎の男やヘンな友人や意地悪な従姉がいたり)で、異常なストーリー(いきなり後援者が出たり命を狙われたり資力を失ったり大金持ちの恋人ができたりその婚約者が血も凍るような極悪非道な方法でヒロインを亡き者にしようとしたり)、不可能な結論(延々とそういうことを続けたあげく、最後に全部忘れて幸せになりました)、何もかもが数十年も前に完成されていたのである。

 

いつの時代も、ウケは変わらないのだなあ。


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